今日は、ベストアルバム『Song Letter Artist』の
レコーディングの時に、録音を担当してくれた方から
教えてもらったことをお話してみたいと思います。

ソングレターアーティストという職業は、
曲数が多い分、レコーディングの機会も多いのですが、
それ以来、録音の時に必ず心がけているのが、
「この時に言われた一言」です。

さぁ、それは一体、どんな一言だったのでしょう。

詳しくお伝えしますね。


まず、このベストアルバムを聴いたことない方の
ためにちょっとだけ解説しておきますと、
昨今のレコーディングスタイルとは大幅に違う
録音形態をとった作品なんですね。

それは、

【一発録り・加工編集ほぼゼロ】

ということ。


実は、最近の音楽というのは、ほとんどが
【多重録音・加工編集】によって成り立っているんです。

歌も、ピアノも、ベースやドラムも、
別々に録って、それを合わせるのが「多重録音」です。

極端な話、歌自体も、1度に録るわけではなくて、
何テイクも歌って、良いところをつないでいくので、
言葉は悪いですが、ある種「ツギハギだらけの作品」
ということもあり得るわけなんです。


そして、「加工編集」というのは、
音の響きを足したり、音程のズレを修正したりすること。

アーティストの技術が不足している分をカバーできるので
パッと聴いた時の聴き心地は良くなるのですが、
何より、「アコースティックな本来の魅力」がどんどん
削がれていってしまいます。

もちろん、私も上記のようなレコーディングを
することがあるので、一概に否定はしませんが、
極力、多重録音、加工編集には頼らないで作品を
録音したいという想いを持っています。


とは言え、「一発録り」というのは
アーティストにとっては真っ裸にされるようなもの。

レコーディングが決まってからというもの、
半年かけてトレーニングに明け暮れました。


そして、レコーディングの1週間ほど前に、
スタジオで録音したデモ音源を、
広島に住むその方に送ったことがあったんですね。

すると、返事が返ってきたのが、
次の一言だったんです。


「安達くん。歌っちゃだめだよ。
 聴かせてほしいんだ」



『えっ??どういうこと???』と思いました。

その一言だけで、それについての解説は
一切ないんです。

禅問答みたいな気がしました。。。

「歌う」ことと「聴かせる」ことの違い、
それが僕にはわからなかったんです。


でも、この方は、音響業界ではかなり著名な
「音楽を聴く」ことにかけてのプロフェッショナル。

『この中には、絶対に、
 今の自分に必要なメッセージがある』


と思って、自分なりにいろいろ考えながら、
レコーディングまでの1週間を過ごしました。


そして迎えたレコーディング当日。


一発録音ゆえ、用意されたマイクは超高性能。

咳払いや唾を飲み込む音なんかはもちろんのこと、
重心を移動した時のわずかな地面のきしみまで
拾ってしまうんです。


1曲目の録音が始まりました。

いつもの通り、想いを込めて、一生懸命歌う自分。

不意に、ヘッドフォンから聴こえてくる自分の声に
違和感を覚えました。

そして、録音したテイクを聴いてみて、またびっくり。


それまで僕は、感情が乗れば乗るほど、
「声を張り上げたり、がなったりする」傾向が
あったのですが、

超高品質なレコーディングを経験して感じたのは

『なんて押し付けがましい歌なんだ…』

ということでした。

逆に、曲の出だしのように、丁寧に歌っている部分の方が
はるかに聴きやすくて、心に響く音色だったんです。

なかばショックを受けて、その夜、
ホテルに戻っていろいろと考えました。


そうだ。メッセージを伝えようと、がなってしまうのは、
自分本位になっているからだ。

「歌う」という行為の主語は自分だけど、
「聴く」という行為の主語は相手。

「歌は誰のもの?」と言ったならば、当然聴く人のためのもの。

それが、「歌っちゃだめだよ。聴かせてほしいんだ」という
言葉に込められたメッセージだったんじゃないか。


最終的に、僕が出した結論は、

「目の前のマイクの位置が、
 聴いてくれる人の耳だったらどう歌うか?」


でした。


翌日、そう思って歌ってみたら、かつてないくらい、
丁寧に、丁寧に一音一音を歌っている自分がいました。

明確に、聴いてくれる人のことをイメージしながら
歌えるようになったんです。

音源を聴きなおしてみて、その差は歴然。

「こんな歌が自分に歌えることがわかった以上、
 もう一度、歌を録りなおさせてください」

結果、レコーディングは再度の仕切りなおしをお願いし、
その結果、納得のいく作品を作ることができました。


「自分のために歌うのではなく、
 聴いてくれる人のために歌う」


これからも、聴いてくれる方のことを一番に大事にしながら、
ソングレターアーティストの道を進んでいきます。

感謝を込めて…。

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